今日は、先週末(7/7・8)に、東京農工大学で開催された日本環境学会の研究発表会に参加しての報告をしました。塩飽は、この学会の幹事をおおせつかっていまして、幹事会(同日開催)にも参加をしてきました。

「日本環境学会」というのは、高度成長期以降の環境破壊に対して、様々な側面から取り組むことを目的として、1975年に立ち上げられた「環境科学総合研究会」という組織が、1983年に「日本環境学会」へと発展したものです。
特徴として、学者や専門家だけでなく、市民や企業に対しても発表や交流の場を開いており、その議論を将来のよりよい環境に向けて役立てることを目標に掲げています。
その一般市民も交えた研究発表会が毎年1回開催されています。

その研究発表会は、一般研究発表とシンポジウムの2本立てになっています。今回のシンポジウムのテーマは、「築地市場の豊洲移転を考える」(1日目)と「大阪府泉南地域のアスベスト対策の実態と問題点 ―海外のアスベスト対策の知見を踏まえて―」(2日目)でした。

今回は、この「築地市場の豊洲移転問題」について、少しお話をさせていただきました。

この「築地市場の豊洲移転問題」については、皆さんご存知でしょうか?
日本の中央卸売市場で最大の取扱量を誇る築地市場ですが、今、東京都はこの市場を施設の老朽化、過密化を問題として2012年までに江東区の豊洲に移転することを計画しています。現在の築地市場は、約23ヘクタール(東京ドーム約5個分)が、豊洲に移転すると約40ヘクタールとほぼ倍の広さになります。
それだけならいいかもしれませんが、新市場予定地は、東京ガス株式会社が30年間都市ガスを製造していた工場があったところで、汚染土壌処理基準をはるかに超える有害物質(ベンゼン、シアン、ヒ素など)が検出されているのです。しかし、これまで十分な調査が行われないまま、東京都は一定の対策をしているので安全だと説明して、強行しようとしているのです。
こんなところに移転して、魚が汚染されると、人々に深刻な被害をもたらすと、市場関係者を中心にした「市場を考える会」(山粼治雄代表、約210事業所が参加)が、3月に6万以上の反対署名を集めて都知事に提出するなど、反対運動も起きています。また、仲卸業者への意向調査でも、7割以上が移転に反対しています。

市場の移転については、最大の問題点が我々の食の安全・安心に関わるということは疑う余地はありません。それと同時に、そもそもなぜ豊洲に移転しなければならないのかということも考える必要があります。

築地市場の跡地利用については、現在東京都が誘致を進めている東京オリンピック(2016年)のメディアセンター建設を予定しているなど、そもそもの出発点が東京都の言う「施設の老朽化、過密化の解消」とは、ずれている可能性もあります。もともと築地市場は、現在の場所で施設を改良することによって対策をとるという独自の計画を策定して、いたにもかかわらず、それを撤回しています。また、当初、東京都への土地売却に反対していた東京ガスに対し、都は土壌汚染を知っていながら、売却を説得したことも明らかとなっています。その他にも、埋立地のため、地震時の液状化現象により汚染物質が噴出することによって魚や野菜が汚染される可能性なども指摘されています。

このような状況に対し、日本環境学会も専門的な見地から、現地調査を申し入れましたが、都はそれを拒否しています。そのため、豊洲の土壌汚染の危険性を指摘し、きちんと市民に開かれた状態で調査を行うことの必要性などを盛り込んだ声明をシンポジウムの中で議論し、声明を出しました(7/9)。このシンポジウムでは、「科学的な根拠は証明されているのか?」、「都が専門家会議を開催している今の時期に声明を出すことが重要」といった、科学論と運動論の整合をどう取るかといったかなり白熱した議論になりました。

現在は、市民の反対運動、きちんとした調査を求める運動に、東京都の姿勢もちょっとずつ変化しつつあるようです。

今回学会に参加して感じたことは、環境問題は、様々な側面を持っており、一面的には言えないこともあります。我々一般人は感情的になりがちなところもあり、そういったところで、専門家がきちんと科学的な根拠を持って、その問題に取り組み、公平な立場を取りつつも、市民の生活の安心・安全を守る視点に立ってこういった活動を支援することも必要になってくると思います。今回の問題は、その重要性と難しさを示していると思いました。まとまりのない報告になってしまいましたが、我々の生活にも直接関わってくる問題なので、今後も注視して行きたいと思っています。